裁判に負けても『一番気の毒なのは佐川さん』
記事には2つの曲を引用しています。『負けないで』と『岸壁の母』。その理由はお読みいただければ納得されると思います。
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判決後、報道陣に思いを訴える赤木雅子さん
この裁判、勝てっこない。原告の赤木雅子さん(52)にとって、それは織り込み済みのことだった。相手の土俵で相撲を取っても勝てない。裁判の流れから、そのことはわかっていた。法廷で黒野功久裁判長が「本件控訴を棄却する」と言い渡した時は、さすがに心がざわついたけど、表情は変わらなかった。
被告は財務省の改ざん当時の理財局長で、最後は国税庁長官に栄進した佐川宣寿氏。森友学園との国有地巨額値引きの真相を隠蔽するために行われた公文書改ざんで「方向性を決定付けた」と、財務省の調査報告書で指摘されている。しかし、この事件で改ざんを強要され死に追い込まれた近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(享年54)のことについて、妻の雅子さんに謝罪や説明をしていない。
これについて黒野裁判長は判決で、「改ざんを指示したと評価されてもやむを得ないものといえる」と指摘した。さらに「道義的責任に基づき、あるいは一人の人間として、誠意を尽くした説明及び謝罪をすることがあってしかるべき」とまで指弾した。まさにその通り! ところが「法的には責任がない」と結論付けた。そんな理屈、世の中で通用する? もちろん、するわけない。満杯の傍聴席から抗議の声が上がった。
「なんでやねん」
「人が亡くなってるんやぞ」
「恥を知れ!」
普通なら制止されるところだが、裁判長はヤジがないかのように淡々と理由を読み続けた。制止するのがためらわれたのだろう。
それより、相手の佐川さん。ついに一度も法廷に姿を見せなかった。それどころか、判決の法廷には代理人の弁護士の姿もなく、被告席はからっぽだった。
雅子さんは、亡き夫を死に追い詰めた公文書改ざんについて、「方向性を決定付けた」と指摘された佐川さんに、いきさつを説明してほしかった。ただ、それだけだ。だから、実は先月(11月)初め、弁護士を通し佐川さんに和解を申し入れる手紙を送っていた。
赤木雅子さんが佐川さんに送った手紙
佐川さんが俊夫さんの墓前か自宅の祭壇の前で手を合わせ、いきさつを話してくれたら、すぐに裁判をやめる。賠償金はいらない、と。
「裁判はすぐにやめます」と申し出たが、返事は来なかった
でも、答えはなかった。「和解に応じない」という返事すら来なかった。スルーされた。国会の証人喚問でも証言を“差し控えた”佐川さんは、今も“だんまり”を決め込んだままだ。
佐川さんは、一審に続き控訴審でも勝った。国にかばってもらった、ように見える。でも、実は逆なんじゃないか? 雅子さんは判決後、報道各社の取材に語った。
「佐川さんは国に守られたようでいて、実はまた捨てられたんだと思います。役所を辞めても、組織のために本当のことをしゃべらないんでしょうけれど、しゃべらない限り、つらい毎日が続くはずです。話す場所を奪われ、闇に葬られて、一番気の毒なのは佐川さんなのかもしれません」
判決後、報道陣の取材に答える赤木雅子さん
最後に、今の心境を歌に例えた。
「『負けないで』ですね」
ZARDの30年前のヒット曲。ボーカルの坂井泉水は歌った。
「負けないで もう少し 最後まで 走り抜けて
どんなに 離れてても 心は そばにいるわ
追いかけて 遥かな夢を」
雅子さんも夢を追いかけるのだろう。真実がわかるその日まで。
雅子さんは上告する。裁判は最高裁へと持ち込まれる。財務省が検察に任意提出した資料の開示を求める裁判も続いている。最後まで走り抜けることができるだろうか?
裁判は続く
法廷で私(筆者)の脳内には別の曲が響いていました。
『岸壁の母』
「母は来ました 今日も来た この岸壁に 今日も来た
とどかぬ願いと 知りながら もしやもしやに もしやもしやに ひかされて
(セリフ) 又、引き揚げ船が帰って来たのに、今度もあの子は帰らない」
……勝てっこないと、とどかぬ願いと知りながら、もしやもしやにひかされて、今日も来ました「法廷の妻」。
勝てないことは織り込み済みとは言っても、やはり「もしかして」と期待してしまうものです。記事は前向きに書きましたし、実際に前向きな気持ちもあるのですが、現実の赤木雅子さんはかなり落ち込んでいました。一人家に帰ったら涙が出たそうです。
皆さまから赤木雅子さんへの応援の言葉をお寄せいただきましたら、ご本人にお伝えいたします。裁判所に、財務省に、政府・与党にも、その思いが伝わってほしいと願います。皆さまのご意見ご感想もお待ちしております。このメールにそのまま返信してください。
この記事は、きょう20日発売の『日刊ゲンダイ』にも、少し形を変えて掲載される予定です。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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