“ラヴ&ピース”は死なない、君らが望むなら~ジョン・レノンが亡くなった日に~

ジョン・レノンが亡くなって43年になる。「戦争は終わるよ、君らが望むなら」と歌ったジョン。世の無関心を告発していたのだと改めて思う。
相澤冬樹 2023.12.09
誰でも
ジョン・レノンの追悼献花台設置を伝える記事より

ジョン・レノンの追悼献花台設置を伝える記事より

今から43年前のきょう、1980(昭和55)年12月9日のこと。僕は高校3年生だった。1か月後に大学共通一次試験(今の大学入学共通テスト)を控え、珍しく下宿の自室でしこしこ机に向かっていた。ちょうど、この記事を配信したこの時分、あたりが暗くなってきたころだと思う。下宿の隣室にいたバンド仲間のNが血相変えて部屋に飛び込んできた。

「お前、こんな時に受験勉強してるのか?  ジョン・レノンが殺されたんだぞ!

この日、ジョン・レノンがニューヨークの自宅前でファンの男に銃撃され殺害された。当時40歳。ビートルズのメンバーとしてポール・マッカートニーと共に名曲の数々を生み出したロック界のレジェンドだ。60年代後半から70年代初期にかけて、アメリカ最大の政治問題だったベトナム戦争を批判し、反戦歌「平和を我等に」を発表。妻、オノ・ヨーコとの世界平和を祈るパフォーマンス「ベッド・イン」などを通し“ラヴ&ピース(愛と平和)”を訴えた。

その後、ヨーコとの間に生まれた息子の育児に専念したが、約5年間の“育休”に区切りをつけ1980年、久々に音楽活動を再開。新作アルバム「ダブル・ファンタジー」を世に出した。シングルカットされた1曲目「スターティング・オーヴァー(再出発)」がクリスマス前の街に流れ、世界がジョンの復帰を言祝ぐ。その華やぎの中で惨事は起きた。

「ダブル・ファンタジー」のレコードジャケット

「ダブル・ファンタジー」のレコードジャケット

……と書くと、「ジョン・レノンの命日は12月8日でしょ?」と疑問に思う方がいるかもしれない。その通りだが、その日付は現地ニューヨーク時間でのこと。時差の関係で日本では9日になる。

〔ちなみに1941(昭和16)年、日本海軍がハワイ真珠湾の米艦隊を奇襲して日米が開戦したのは日本時間の12月8日だが、ハワイ時間では12月7日で、アメリカでは日米開戦は12月7日となっている〕

ジョン殺害のニュースはたちまち全世界を駆け巡った。それをラジオで聞いたバンド仲間のNが僕に知らせたのが日本時間9日のこと。ネットも携帯もまだない時代、ロックの最大の情報源はラジオだった。

ジョンの死後、「スターティング・オーヴァー」はチャートを駆け上り、全米・全英で1位に。ジョンのソロ作品として最大のヒット曲となった。ほかにもソロ時代の代表作は「イマジン」や「マザー」など数多くある。でもジョンが亡くなったのはクリスマス前だったから、僕はこの時期にはいつも「ハッピー・クリスマス」を思い起こす。

曲の冒頭、ヨーコとジョンの「ハッピー・クリスマス、キョーコ」「ハッピー・クリスマス、ジュリアン」というささやき声に続き、「So this is Christmas」とジョンが歌い出す。メリー・クリスマスとハッピー・ニュー・イヤーのおめでたい言葉が並んだ後、いきなり「戦争」という物騒な単語がぶっ込まれる。

War is over, if you want it

(戦争は終わるよ、君らが望むなら

この曲は1971年発表だから、アメリカはベトナム戦争の真っ只中。連日多数の戦死者を出していた。それをはるかに上回る犠牲者がベトナム側に出ていた。だからここでいうWarは戦争一般ではなくて、目の前のベトナム戦争だ。

それは、みんなが望めば終わらせることができる。裏返すと、戦争が終わらないのは、みんなが戦争を終わらせたいと本気で望んでいないから。無関心だからだ。この国の一人一人の責任なんだと訴えている。「無関心は罪だ」と告発している歌だろう。

この曲の2年後、米軍はベトナムから撤退。さらに2年後、南ベトナムの首都だったサイゴンが陥落し、ベトナム戦争は終わった。その後、祖国を逃れようと小舟で南シナ海にこぎ出した“ボートピープル”が海で大勢犠牲になる。ゲリラの隠れ家となる密林をなくすため米軍が大量に散布した枯れ葉剤の影響も残った。戦争は終わっても戦禍は続く。そしてアメリカはその後も世界中で戦争を引き起こしている。

僕らはこれを今の日本のことに引き直して考えるべきだろう。暮らしが苦しい、世の中がおかしい、政治が悪いとしたら、それは僕らが世の中を本気で変えようとしないから。世の中のことに無関心だから。この国の一人一人の責任なんだ。

かといって、自分たちの主張を声高に叫ぶだけでは、世間の人たちは“ひいて”しまう。それでは世の中は変わらない。多くの人が共感できる、人の心に“刺さる”訴え方で、賛同する人を増やしていかないと、世の中は変わらない。

ジョンは、人の心に刺さる方法で“ラヴ&ピース”を訴えた。これを真っ正面から照れもせず歌って様になる。そんなの、ジョン・レノンをおいてほかにない。

“ラヴ&ピース”を歌ったジョンは、43年前に死んだ。でも、“ラヴ&ピース”は死なない、君らが望むなら

***

これは「ミュージック・マガジン」誌で連載していた「相澤冬樹のロック記者人生」で2021年2月号に掲載した文章を書き改めたものです。

この記事は誰でも読むことのできる公開記事として配信しています。下記のマークをクリックしてサポートメンバー(月600円)にご登録いただくと他の有料記事も読むことができます。どうぞよろしくお願いいたします。

記事について皆さまのご意見ご感想をお待ちしております。このメールにそのまま返信していただくと私にも届きます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

無料で「相澤冬樹のリアル徒然草」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

提携媒体・コラボ実績

サポートメンバー限定
日本のブラックボックスをこじ開けた……映画『Black Box Dia...
サポートメンバー限定
永久に刻まれた音楽……『チャック・ベリー ブラウン・アイド・ハンサム・...
サポートメンバー限定
高市自民圧勝で森友開示の行方は…
サポートメンバー限定
夢を叶えた先の葛藤…『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
サポートメンバー限定
森友開示の道を開いた加藤前財務大臣が自死職員の墓参り 大臣経験者で初
サポートメンバー限定
自分も財務官僚だったのに…片山財務大臣「こういうこと起きると誰も思って...
サポートメンバー限定
「佐川氏のメールは存在しない」と財務省
サポートメンバー限定
“把握”しているが“失念”とはこれ如何に?